大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成9年(わ)258号 判決

本籍

福岡県嘉穂郡頴田町大字鹿毛馬一、一一一番地

住居

右同

職業

会社役員

被告人

梅田親義

昭和一一年三月二五日生

主文

被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、福岡県嘉穂郡頴田町大字鹿毛馬五二五番地の一に事務所を置き、「梅田石材店」の名称で墓石・石材の製造販売業を営んでいたものであるが、梅田勝成と共謀の上、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を隠匿した上

第一  平成四年分の実際所得金額が七、二四二万二、七四一円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、福岡県飯塚市新立岩一一番地四五号所在の飯塚税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一、九四二万三、七〇一円で、これに対する所得税額が五三三万六、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三、一六四万四、五〇〇円と右申告税額との差額二、六三〇万八、五〇〇円を免れ

第二  平成五年分の実際所得金額が七、一一一万五、九七二円であったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記飯塚税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が二、五〇〇万四、一七八円で、これに対する所得税額が七八二万七、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三、〇八八万三、〇〇〇円と右申告税額との差額二、三〇五万六、〇〇〇円を免れ

第三  平成六年分の実際所得金額が八、一五四万二、四三三円であったにもかかわらず、平成七年三月一四日、前記飯塚税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が二、〇九九万九、六六八円で、これに対する所得税額が四六九万三、四四〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三、四〇八万円と右申告税額との差額二、九三八万六、五六〇円を免れ

たものである。

(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

判示全部の事実について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官調書(乙一)

一  梅田勝成の検察官調書(甲一〇)

一  脱税額計算書説明資料(甲四)

一  査察官報告書(甲五、七)

一  捜査報告書(甲九)

一  領置品の抄本作成報告書(甲一一)

判示第一の事実について

一  脱税額計算書(甲一)

判示第二の事実について

一  脱税額計算書(甲二)

判示第三の事実について

一  脱税額計算書(甲三)

(事実認定についての補足説明)

弁護人は、被告人が判示平成四年分、同五年分及び同六年分の各所得税確定申告書を提出するに当たって、梅田勝成(以下、「勝成」という。)に対し、脱税するよう具体的に指示したことはなく、また、その旨同人と共謀したこともない旨主張するので、検討する。

関係証拠によれば、次の事実が認められる。

一  被告人は、判示の場所に事務所を置き、「梅田石材店」の名称で、墓石・石材の製造販売業を営んでいたものであるが、平成二年ころから右事業に関する経理事務は息子の勝成が担当し、被告人の所得税申告手続も勝成がするようになった。

二  被告人は、平成三年から、福岡市が分譲する西部霊園での墓石販売を始め、売上額が伸びたので、その時期に墓石切出用機械及び事業用自動車の購入資金や自宅の増築等の費用を捻出するため脱税しようと考えるようになり、同年一二月三一日ころ、勝成に対し、「今年は、売上が上がったけど現金はほとんど残らんかった。今度の税金申告の時には前年の所得額を少し上回るくらいの所得額で申告しておいてくれ。」等と申し向け、事業所得額を正確に申告するのではなく、前年分を少し上回る程度の金額に押さえて申告し、所得税を脱税するよう指示し、勝成もその指示を了解した。

三  平成四年分、同五年分及び同六年分の被告人の所得税確定申告手続は、勝成によって判示記載の時期になされているが、勝成は、前記のとおり被告人から平成三年一二月に被告人の所得を過少に申告して脱税するように指示されてから、その後それを中止するようにとの申し出もなかったことから、平成四年から同六年分の被告人の所得税確定申告についても、引続き被告人から脱税を指示されているものと考え、判示第一ないし第三のとおり、被告人の所得を過少に申告して脱税行為に及んだ。

四  被告人は、平成三年一二月、勝成に前記のとおり脱税を指示したので、勝成においては、平成四年分以降の被告人の所得税確定申告においても所得を過少申告して脱税を続けてくれるものと考えていた。

五  被告人は、平成四年ないし同六年分の自己の所得額の詳細は知らなかったものの、勝成から、右各年度の被告人の所得税確定申告に際し、その都度、申告手続前に、当該年度の申告事業所得額及び申告所得税額の説明を受けていたが、申告所得額が実際の所得額を下回っていることに気付き、脱税していることを承知しながら、何ら異議をとなえたことはなかった。

六  以上認定の事実を総合すれば、被告人は、勝成と共謀の上、判示第一ないし第三の各犯行に及んだことが優に認定でき、右認定に一部反する被告人の公判供述は、被告人の捜査段階の供述及び勝成の検察官調書中の供述等に照らし採用できない。

(法令の適用)

罰条

判示行為

平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、所得税法二三八条(懲役刑と罰金刑の併科)

併合罪の処理

懲役刑につき前同刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

罰金刑につき前同刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置

罰金刑につき前同刑法一八条

執行猶予

懲役刑につき前同刑法二五条一項

(検察官片山義夫出席)

(求刑―懲役一年及び罰金二、〇〇〇万円)

(裁判官 照屋常信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例